花の魔女
「あら、やっぱり来たのね。来ると思っていたわ」
ドニははっとし、勢いよく振り返った。
その拍子に、懐に隠していた本が飛び出し、バサリと床に落ちる。
薔薇の花びらを挟んでいたページが開いた。
そのページに、一番大きな文字で書かれている見出しには―――
闇の精霊。
慌てて本を拾おうとしたが、先に拾ったのはドニに声をかけてきた人物だった。
「あらあら、この本……。書斎から持ち出してきたのね。どうりで見つからないと思ったのよ、悪い子ね」
そう言いながらパラパラと本をめくる女の顔が、他の階よりも暗いこの階にかろうじてついている廊下の高窓にから差し込んだ月明かりに照らされ、ドニは息を呑んだ。
「ド、ドロシー様」
顔を真っ青にして慌てたドニの様子に、ドロシーは満足げに笑みを浮かべた。