花の魔女
(ラディアンを助けるためには、この上ない話かもしれない……)
ナーベルは少し考えてから、アナベラをちらりと見た。
アナベラはナーベルの視線に気づくと、柔らかく微笑んでみせた。
任せなさい、と言われたような気がした。
少し泣きそうになる。
「……わかりました。お願いします、アナベラさん」
アナベラはにこっとして、身分に似合わず胸を拳でドンと叩いた。
「私たちにお任せを。お嬢様を確かにお預かりしますわね」
ナイジェルはほっと胸をなで下ろし、フィオーレはぱっと花を咲かせて喜びを表現した。
「それではさっそく引っ越しの準備に取りかからなくては!こういうことは早い行動が一番ですわ。ナーベル様、戻りましょう!」
「え、ええ……」
嬉々としたフィオーレに腕を引っ張られて、ナーベルはまた来たときと同じように、半ば中に浮かぶようにしてナイジェルの家を出た。
「アナベラさん」
ナーベルが出ていったばかりのドアを見つめて、ナイジェルはぽつりと言った。
「娘は、あまりお役に立てないでしょうが……、どうぞよろしくお願いします」
かしこまってナイジェルが深々と頭を下げるので、アナベラは嫌だわ、と笑って手を振った。
「大事な息子を救えるのはあの子しかいません。それにもう、私の娘同然に思っておりますの。可愛くて仕方ないのよ、粗末になんかしませんわ」
ナイジェルはそれを聞いてじわりと胸が熱くなるのを感じ、もう一度、深く頭を下げた。