花の魔女
給仕の若い女性が二人の前に静かにコーヒーを置いて去って行った。
「どういう意味って……」
彼は驚きに目を見開いて、それからすぐにはっとしたような顔をした。
「…ああ、そうか。君は知らないんだね。とりあえず僕の名前はラディアンだから」
ナーベルは何が何だかわけがわからなかったので、彼を見つめながら何も言わずにコーヒーに砂糖をいれてかきまわした。
ラディアンは心なしか表情を曇らせていたが、すぐに顔をあげた。
「実は、僕はずっと君を探していたんだ」
「ええ、それは人に聞いたから知ってる」
ラディアンは優しく目を細め、湯気のたつカップに口をつけた。
「…どうしてかわかる?」
ナーベルはしばらく考えてみたが、どうしてもしっくりくる理由が浮かばなかった。
黒髪が好きだから、というばかげた考えは浮かんだが、それはないだろうと首を振った。
「全くわからないわ」
ラディアンはやはりという顔をして、ナーベルの答えを聞いて頷いた。
「説明するよ。少し長くなるけどね」
こくりとナーベルは頷いた。
手にしたコーヒーカップをそっとソーサーに戻す。
ラディアンはナーベルが聞く姿勢をとったのを確認すると、静かに話し始めた。
「落ち着いて聞いてね。実は、僕は魔法使いだよ。でも完全なものじゃない。一人前になるには魔女と結婚しないとだめなんだ。だから、あちこち魔女を探しまわった。そしたら、この村に君がいた」