花の魔女
「そんな……」
ナーベルが涙を流すと、ラディアンは彼女の髪を撫でた。
「心配しなくていい。冬の間、眠り続けるだけだよ。春になればまた元気になる」
「………」
また泣きそうになったところへ、ジェイクが二階から降りてきた。
ナーベルは素早く反応し、ジェイクに飛びついた。
「ジェイク!フィオーレは……?」
ジェイクは疲れたような顔をしていたが、ナーベルに笑ってみせた。
「しばらく眠るって。ナーベルに修行に付き合ってやれなくてすまないと言っていたよ」
「そんなの構わないわ!」
ナーベルがそう叫んだ途端フィオーレの眠る部屋に駆け出すと、ラディアンが疲れた顔のジェイクを見つめた。
「ジェイクは平気なのか?」
ジェイクはラディアンの心配そうな視線を打ち払うかのようにはっ、と笑った。
「俺は“森”だ。花みたいに姿を消してしまうわけじゃない。ただ少々、力が弱まるだけだ」
ラディアンはジェイクの言葉にそうかと頷いたが、緊張した面持ちで窓の外を見た。
落ち葉が風に煽られて、ザァッと舞い上がる。
「まずいな……」
そっとそう呟いたラディアンの声は、ジェイクの耳には届かず消えた。