花の魔女
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ドニはラディアンの異変に、どうすることもできずにただ黙り込んだままのラディアンのそばについているしかなかった。
もうドロシーがこの部屋を出て行ってから随分経つというのにラディアンの様子はおかしなままだ。
ドロシーはラディアンに、自分を好きになる伏線である暗示をかけたと言った。
一体どのような暗示なのだろうか。
ドニはラディアンに触れるのがためらわれて声をかける程度にしか行動できなかった。
しかし、ラディアンの頬に先程受けた傷から滲んだ血がついたままであるということに気がつき、ハンカチを取り出し近づいた。
もう完全に乾ききって赤黒く変色しているが、ドニはその血を拭うためラディアンに近づく。
触れることで、どうなるかわからない。
何か起こるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。
ためらいながらも、ラディアンにそっと触れた。
「!!」
途端、ラディアンの体がビクリと動き、ドニは驚いて下がろうとしたが、ラディアンがその腕を捕まえたために下がれなかった。
ドニは悲鳴をあげそうになったのを必死にこらえて、俯いたままのラディアンを覗き込んだ。
ラディアンの顔がゆっくりとあがる。
その瞳がドニを完全に捉える直前に、ドニはごくりと唾を飲み込んだ。