花の魔女
確かに気がおかしくなってしまいそうだ。
自分なら間違いなく気を失ってしまうだろうと思い、今、気丈にも微笑みを自分に向けているラディアンに感心した。
それも、きっと自分を不安がらせないようにするためだろう。
自分はシャミナード家に仕えている者ではあるが、こんなに恐ろしいことを平気でやる一族に仕えていたとは思わなかった。
シャミナード家に対する恐怖と憤りが募るのと同時に、目の前にいる人物を助けたいという気持ちも募り、そしてそちらが勝った。
主人であるシャミナード家を裏切ってでもラディアンをここから出してやりたいと、心の底から思ったのだ。
「ラディアン様」
ドニは部屋の扉に手をかけながら、ラディアンを振り返った。
「お腹がすかれたでしょう。夕食をお持ちしますから、しばらくお待ちください」
「ありがとう、ドニ」
お礼を言うラディアンの声を聞きながら扉を閉めた。
そして、そっと心に決めた。
やってみよう、あの方を救うことができるのなら。
こんな自分でも、力になれるようなことがあるのなら―――
意志を湛えた顔をあげて、歩き出した。
夕食を取りに行くはずの厨房とは、逆の方向に。