夏の幻


戸惑う俺に、彼女は手を下ろして言った。


「…夏の間だけ、この世にいようと思って。」


彼女のその言葉が、俺の質問に対する答えだった。

掌に力が入る。



「…ずっと…ここにいるの?」



その質問には、軽い微笑みで返事をする。

次第にその小さな彼女の微笑みに、俺は親近感を覚える様になった。


「せっかくこの世にいるんならどっか出掛けたらいいのに…。あ、もしかして、自縛霊とか、そういう類いの…?」


…俺、何幽霊にこんな親しげに話してんだろ。

自分の順応性に呆れる。

彼女もそう思ったのか驚いた視線を向けていたが、またあの上品な笑顔を見せた。





「ほんと…あなた、変わってる」

彼女につられて俺も苦笑いした。


…確かに変わってるだろう。

幽霊とこんな親しげに話す奴なんかなかなかいないだろうし。


「君も変わってるよ」

彼女はふっと視線を上げた。


「なんか、幽霊っぽくないもん。」


「足だってあるし」と続けると、彼女は方眉を下げて「幽霊も進化してるのよ」と言った。


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