夏の幻
妙に納得して頷く。
世界は毎日目まぐるしく変わっている。
幽霊だって進化してもおかしくない。
白い浴衣に透ける体、消えた足なんて、もう古いスタイルなんだろう。
「高校生?」
彼女が聞く。
「うん、西高…つってもわかんねぇか。今夏休みで、夏期講習中…」
そこまで言って俺はふいに思い付いた。
暑い夏。
たいして意味もない夏期講習。
そんな日々に風穴を空ける衝撃の出会い。
「俺、毎日帰りに寄っていい?」
突然の申し出にもちろん彼女は驚いていた。
俺はたたみ掛けるように続ける。
「せっかくこの世にいれるのに…毎日一人でいてもつまんなくない?正直俺も、刺激が欲しいって思ってたし…」
幽霊と話すなんて、夏にもってこいの刺激だ。
こんなチャンス、二度とないだろう。
「どうですか?」
…しばらく呆然としていたが、ふいに彼女が笑った。
綺麗な笑顔。
「やっぱりあなた、変わってるわ」
…古い洋館に赤い着物。
非現実的な世界の中で出会った一人の幽霊。
こうして僕らの、ひと夏の幻が始まった。
……………