夏の幻
……………
次の日学校に行くと、さっそく敬太が話しかけてきた。
「行った?昨日」
「ああ」
ドサッと鞄を机に置く。
目を輝かせながら敬太は「どうだった?」とたたみ掛ける。
「なんもなかった。やっぱ、幽霊なんていないんだよ」
期待外れの答えに「なぁんだ」とあからさまにがっかりしてみせ、敬太は下敷きを扇ぎはじめた。
…昨日の出会いは、誰にも言うつもりはなかった。
もちろん彼女に口止めされたからでもあるが、もしされてなくても言わなかっただろう。
この秘密は、俺だけの秘密にしておきたかったのだ。
暑い教室も意味のない講習も、今日はそれほど苦痛じゃない。
…早く彼女に会いたかった。
…「ほんとに来たんだ」
部屋に駆け込むと、あの椅子に昨日と同じように彼女が座っていた。
「もちろん」と笑ってみせて、手近にあった古い椅子の埃をはらう。
少し離れた場所に椅子を持っていき、俺も彼女の様に腰かけた。
「名前、なんていうの?」
俺は聞いた。
「幽霊にも名前、あるでしょ」
彼女は少し考えて呟いた。
「…ミーコ」
「ミーコ?」