夏の幻
予想外の名前に少し驚く。
ミーコなんて、猫の名前みたいだ。
確か隣の家の猫もそんな名前だった気がする。
俺は自分の名前も言おうとした。
「あ、俺は…」
「シロ」
これまた予想外なミーコの一言。
意味がわからず呆けている俺に、ミーコは少し微笑んで言った。
「あなたの髪の毛、昔家で飼ってた犬に似てるの。だから、シロって呼ばせて」
俺は自分の髪を触った。
フワッとした癖っ毛に、日に透ける茶色。
「茶色なのに、シロだったんだ」
ふふっと微笑み、「そうよ」と言うミーコ。
「じゃあ…ミーコっていうのは、飼ってた猫の名前?」
少し挑発する様に言ったが、ミーコはあっさり「そうよ」と偽名を認めた。
拍子抜けだ。
…まぁいいか。
だいたい出会いも何もかもが普通じゃない。
名前だけ本名だなんてそれこそ違和感だ。
シロとミーコ。
…俺はここでだけシロになろう。
一人納得していた所に、ミーコが話しかけてきた。
「シロは…あたしのこと、怖くないの?」
俺はミーコの方を向いた。
やっぱり人形の様に整った顔立ち。
俺は「怖くないよ」と言った。