夏の幻
「だってミーコ、幽霊っぽくないじゃん。ミーコが貞子みたいな姿だったらさすがに怖いけどさ」
ははっと笑う俺に、「貞子?」と聞き返すミーコ。
「そ、リングの…」
そこまで言って、ふっと考えた。
ミーコの姿を見る。
赤い着物に黒髪。
ミーコには十分似合ってるが、最近の若い子が日常的にする格好じゃないだろう。
俺は頭に過った事を口にした。
「…ミーコって、いつの時代に生きてたの?」
この洋館はかなり昔からあると聞いていた。
ミーコの格好からしても、平成じゃない様な気がする。
少し考えて、ミーコは口を開いた。
「…明治生まれよ。日本と清が戦争をしてた頃。」
…1894年、日清戦争。
腐っても受験生だ。すぐに頭に浮かんだ。
「時の内閣は伊藤博文。よく、島崎藤村や与謝野晶子を読んだわ。知ってる?」
「えと…舞姫?」
「それは森鴎外」
クスッと笑うミーコ。
…歴史はそんなに得意じゃない。
「お母様に連れられて歌舞伎もよく見てたわ。市川団十郎とか、佐団次とか…今団十郎は何代目?」
「…7代目くらい?」
「まさか。あたしの時代が9代目よ?」