夏の幻



……………


…久しぶりにあの道を通った。

あの頃緑だった木々も、今は赤く染まっている。


涼しくなった風を感じながら、ペダルを漕ぐ足を早めた。











…あの洋館は変わることなくひっそりと建っていた。


まるで何事もなかったかの様に佇む屋敷。


いつかミーコが覗いていた窓を見上げる。


あの日焼き付けたミーコの笑顔が蘇り、眩しくて目を細めた。



…再びペダルに足をかけ踏み出そうとした瞬間、懐かしい音が耳に届いた。





─…チリン




俺は思わず音のする方に向き直る。




「…ミーコ?」











…どこからか現れたその猫は、すっと俺の足元に寄ってきた。


ゴロゴロと喉を鳴らしながら頬をすりよせたかと思うと、すいと自転車の間をぬけて行ってしまう。



猫の歩く拍子に、チリンと首輪の鈴が鳴った。



俺はその猫が見えなくなるまで、ただじっと眺めていた。





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