夏の幻


「…まじで?」
「まじで。窓からさ、じっと俺のこと見下ろしてんの。赤い着物に…日本人形みたいな、綺麗な黒髪で」

そこまで話すと、俺達の周りの気温が少しだけ下がった気がした。
敬太は足を下ろして俺の方に向き直る。

「光…霊感あったっけ?」
「全く。だからかなりびびったんだけど…なんか気になってさ」

昨日の衝撃が全身に蘇る。

確かに冷や汗を感じたが、その前のあの全神経を奪われる感覚。

鈴の音と、透けるような白い肌。

幽霊じゃなかったら、思わず振り返ってしまうような美しさだった。


「…だからさ」

俺は敬太の顔を覗き込んだ。

「今日、帰り一緒に行ってくれない?あの屋敷に」

できるだけの満面の笑み。
敬太も気味が悪い程の笑顔を返した。

「光、知ってるだろ?俺、怖がりの知りたがりなの。」

それだけ言うと再び下敷きに手を伸ばした。


「結果報告楽しみにしてるよ、光君」


…薄情なヤツめ。

俺は一つため息をつき、しぶしぶ参考書に手を伸ばした。





……………






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