夏の幻



……………

散々迷った挙げ句、やっぱり俺はあの道を選んでしまった。
なんだかんだ言いながら、好奇心だけはいつも旺盛なのだ。

それにやっぱりどこか気になる。

俺は昨日と同じように裏道を走った。









…昨日の場所に着く。

自転車を止めて上を向くが、今日はあの鈴の音も赤い着物もなかった。
少し考えたが、俺は自転車を止めて古い洋館に向かって足を進めた。

…大丈夫、まだ真っ昼間だ。

好奇心が恐怖に勝り、俺は軋む扉に手をかけた。










…中は外観に比べるとすっきりしていた。

白い布のかかったテーブルや椅子があり、あちこちに蜘蛛の巣がある。

前の住人の気配はすっかり無くなっていて、なんだか少しもの寂しい雰囲気だった。


しばらく辺りを見渡していたが、ふいに階段が目についた。

なだらかな螺旋を描くそれ。
俺は無意識にそっちに向かって歩き出した。

軋む階段を一歩ずつ進む。

上に行くと、下とは違い光が射し込んでいるのがわかった。


一筋の光が廊下に描かれている。

ほとんどの部屋は扉が閉まっていたが、その光の出所である部屋だけは半分だけ開いていた。



< 7 / 37 >

この作品をシェア

pagetop