夏の幻
……………
散々迷った挙げ句、やっぱり俺はあの道を選んでしまった。
なんだかんだ言いながら、好奇心だけはいつも旺盛なのだ。
それにやっぱりどこか気になる。
俺は昨日と同じように裏道を走った。
…昨日の場所に着く。
自転車を止めて上を向くが、今日はあの鈴の音も赤い着物もなかった。
少し考えたが、俺は自転車を止めて古い洋館に向かって足を進めた。
…大丈夫、まだ真っ昼間だ。
好奇心が恐怖に勝り、俺は軋む扉に手をかけた。
…中は外観に比べるとすっきりしていた。
白い布のかかったテーブルや椅子があり、あちこちに蜘蛛の巣がある。
前の住人の気配はすっかり無くなっていて、なんだか少しもの寂しい雰囲気だった。
しばらく辺りを見渡していたが、ふいに階段が目についた。
なだらかな螺旋を描くそれ。
俺は無意識にそっちに向かって歩き出した。
軋む階段を一歩ずつ進む。
上に行くと、下とは違い光が射し込んでいるのがわかった。
一筋の光が廊下に描かれている。
ほとんどの部屋は扉が閉まっていたが、その光の出所である部屋だけは半分だけ開いていた。