軌跡
「もう止めろ。誰がよかった、悪かったじゃないだろ。四人で一つの音楽を作り出すのがバンドだろ。だったら、誰が悪い訳でもない」
 賢介の言葉は誰もせめてはいなかった。だがそこには、確かに今日の睦也をなじるニュアンスが含まれていた。
賢介の言葉によりその場は一先ず落ち着いたが、睦也の苛立ちが収まることはなかった。目の前のジョッキを一息で飲み干し、新たにウィスキーのロックをダブルで注文した。
みんなして何だって言うんだよ。今日のおれはそんなに悪かったか? いつもと変わらなかったじゃないか。第一、秀樹が言わなかったら、誰が言うつもりだったんだ。それに昼間の賢介の態度も腹が立つ。……そういえばあのとき、賢介は何かを言いかけた。きっとそれは、最近のプレイに対する文句だったのだ。クソッ、一体何なんだよ。まるでおれにやる気がないみたいじゃないか。どいつもこいつも、腹が立つ奴らばかりだ。
目の前に出されたウィスキーを一息で飲み干すと、新たなそれを注文した。いくら飲もうとも、このイライラは酔い潰せそうもなかった。
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