軌跡

　休日の下北沢は、友人同士の買い物客や、肩と肩を寄せ合う恋人で溢れていた。
「久々に日曜に下北に来たけど、やっぱ人が多いな」
「たまにデートしても、いつも平日だもんね」
　ファミレスで働く睦也に、ショップで働く優。どちらもサービス業なので、土日に休みをとれることは滅多にない。ゆえに自然とデートは、平日になってしまうのだ。
「まぁ、たまには一般人の気分を味わおうではないか。何か見たい服とかある？」
「私はお店で買わなくちゃだし、睦也の好きな服を見ていいよ」
　その言葉に甘えることにし、目についた店から順に覗いていった。
「ねぇ、ちょっとこれ着てみて」
　差し出されたのは黒のピーコートだった。睦也はそれを受け取ると、素早く値札を確認した。
　……税込みで一万五千円。まぁ、試着だけならタダだ。
「うん、似合ってるよ。値段の割にシッカリしてるし、これからの季節に丁度いんじゃない？」
「値段、チェック済みなんだ？」
「それはそうよ。予算の少ないお客様に、あまり高い商品は勧められないでしょ？」
　さすがプロだ。だが、関心してる場合でもない。