軌跡

　そこは壁一面を水槽に覆われ、水族館でしか見たことのないような熱帯魚たちが優雅に泳ぎ回っていた。店内も黒を基調としおり、ブルーライトのほのかな明かりが、海底にいるかのように錯覚させた。
「すごい、綺麗」
　席に着いた優は、一通り感嘆の声を上げると、急に我に帰った。
「でも、お金大丈夫なの？」
「大丈夫、大丈夫。値段はそんなに高くないんだ。まぁ、おれのバイト先よりかは高いけどね」
　いかにも何度か来たことのあるように語ったが、睦也自身、訪れたのは初めてだった。この日のために、ネットで雰囲気がよくて安い店を探しておいたのだ。
　先ずはビールで軽く乾杯し、コース料理が運ばれてくるのを待った。
料理は、前菜に秋鮭のカルパッチョ。パスタにペスカトーレ。肉料理に子羊の煮込み。最後にデザートとカプチーノで締められた。その間、グラスビールを飲み終えた二人は、イタリア産の白ワインのデキャンタを頼んだ。普段あまり強いお酒を飲まない優も、この日はワインを楽しんでいた。