軌跡
 西小山のアパートに戻り、玄関を開けるなり優は抱きついてきた。静かに唇を重ね、徐々に激しく求めていく。靴を脱ぐのも、服を脱ぐことさえも煩わしかった。お互いの口から洩れる息は白く宙を漂ったが、不思議と寒さは感じなかった。服を脱がせ合い、乱暴に敷いた布団の上に倒れこむと、カチン、という金属音が響いた。
「こうする度に、ハートが一つに重なるね」
 優の白く、形のいい胸の谷間の上で、二つのネックレスは、吸い寄せられたように重なり合っていた。
 睦也は強く願った。この瞬間が、永遠に続くことを。それが叶わぬ願いであれば、せめて、この気持ちを真空パックし、心の中にずっと保存しておけるように。そうすれば、これから何が起ころうと、優を守っていける。
何の不安も、恐怖も、今の二人の間には存在しない。それなのに、睦也はそんなことを考えていた。
< 48 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop