先生

駐車場に車を停めて、先生に支えてもらいながら病院の中に入った。


「あ、財布…。」


「ああ。俺もその事すっかり忘れてた。今日の分は、俺が立て替えとくから、安心して?」


「すみません。」


受け付けを済ませて、長椅子に座って、呼ばれるのを待つ。

先生は、スポーツ新聞を取って来て、私の横にドカリと座って読み始めた。


野球のページに至っては、凄く真剣に読んでいた。


好きなのかなぁ…。

野球。


「ん?どうかしたか?」


私の視線に気付いて、先生が新聞を読むのを止めて、私を見る。


「いえ…。何でもないです。」


急に恥ずかしくなって、俯く私。


「格好いいからって、あんまり見るなよ?恥ずかしいから。」


クスリと笑って、再び新聞を読み始めた。


「今の…嘘だからな。」


真剣に読みながら、ポツリと呟く。


視線は新聞に置いたまま。


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