偽りの結婚
「ん………」
覚醒に向かうような声を上げ、眉を寄せるラルフに頬に触れていた手をパッと放す。
長い睫毛がふるえた後、ゆっくりと目を開く。
「ふぁ……」
まだ眠そうに欠伸をしながらも、紺碧の瞳が開きこちらを捉える。
そして、視界に私を捉え目を細めて蕩ける様な笑顔で笑う。
「おはよう、シェイリーン」
朝起きた時に発する独特の掠れた声が耳に届き、真っ赤になる。
ドキッ……――――――
それは、社交界で令嬢たちに見せる作り笑いや、話を合わせる為の愛想笑いではなかった。
時折見せるその笑顔に一瞬のうちに鼓動は高鳴った。
引っ込めた手をラルフと自分の胸の間に置き、いつもより早い心臓の音が伝わらないようにする。
「おはようございます…」
ただの朝の挨拶だというのに、変に意識してしまう。