偽りの結婚
しばらくエントランスで待たされた後、執事が帰ってきた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
そう言われ、屋敷の奥へと通された。
執事に連れられて着いたのは、応接室のような場所。
広々とした部屋に、アンティークの机とソファーが設えてあり、床に敷かれた絨毯は見事な刺繍が施されている。
その部屋の中心でソファーに座っていた人物が立ち上がり、こちらを向く。
しかし、それは会いたいと焦がれた人物ではなかった。
「お久しぶりです…と申し上げた方がよろしいのでしょうか。アリア・ノルマンと申します。一度、兄の誕生パーティーの際にお会いしているのですが」
シェイリーンよりも幼い顔立ちの少女は、ドレスの端を持ち、正式な挨拶をしながら名乗る。
「あぁ、覚えている」
ショートボブの赤がかった茶色の髪、琥珀色の瞳のその少女には確かに覚えがあった。
「あら?もう作り笑いはしないんですの?」
表情は笑っているのだが、琥珀色の瞳が容赦ない威圧感を湛えている。
随分と裏表の激しそうな女だ。
自分と似た目の前の少女に、苦手意識を感じていた。