偽りの結婚



「きゃっ…!」

「傷つくな、その反応」


大きな悲鳴を上げそうになるのを、手で口を覆いながら後ずさりした私を面白そうに見つめるそれ……否、その人。

私の横に座って何食わぬ顔でこちらを見ていたのは、秀麗な顔つきをした男だった。

見れば、正装をしているので、舞踏会に招待された人間であることが分かる。

男は発した言葉とは裏腹にニコニコとこちらを見つめている。



「そんなに驚かなくてもいいだろう」

「誰でも寝起きに知らない男性が隣に居れば驚きます!」


男の言葉にハッと我に返り、キッと睨みつけながら反論する。



「誰でもベンチに寝ている女性がいたら興味を持って近づくと思うけど?」


悪戯な笑みを浮かべて楽しそうにそう言った男。

“ベンチで”と強調されてはそれ以上言葉もない。




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