偽りの結婚
「こんな場所で一人など危険ですよ?」
目の前に来たラルフの声が若干固くなったがそれには気付かなかった。
それよりも、先ほどからどこか覚えのある状況と台詞が頭の中を巡っていた。
そして、たどり着いた記憶にハッとする。
そうだ……ここは、とラルフの始まりの場所。
ここから全てが始まった。
私とラルフの偽りの関係が始まった場所。
終わらせるには相応しい場所だ。
「すぐに、戻ろうと思っていましたから」
胸に秘めた想いとともに覚悟を決めて立ち上がる。
「ラルフ様も早くホールに戻らなければならないんじゃないですか?」
ソフィアの事がちらつき罪悪感を感じながらそう言う。
そうすると、ラルフからピシャリと返事が返ってくる。
「僕は今日の主役ではないから大丈夫」
ラルフを見上げると、なぜか焦っている様子。
不思議に思いながらも、そうですか、と短く答える。