偽りの結婚



「今日は月が綺麗ですね」


ラルフは夜空を見上げる。

私の事をどこかの家の令嬢だと思っているのかしら。

口調が公式の場で使うような使いまわしだった。





「そうですね。今日は満月ですし」


こんなにもゆったりとした時間をラルフとすごしていることが信じられない。

久々に心地良い時間を感じていた。






「こんなに綺麗な月なんです。折角ですから、この月夜の下で私と一曲踊っていただけませんか?」


ラルフは月夜に負けないくらい綺麗な笑みを浮かべて、手を差し出す。




「え…?」


対する私は差し出された手を見つめたまま固まる。

まさかラルフの方からダンスに誘ってくれるとは思っていなかった。





「私とでは嫌ですか?」


なかなか手を取ろうとしない私にラルフはこれ見よがしに眉を寄せる。



「い、いいえ。ただちょっと…ダンスには自信がなくて」


手を前に出して慌てて否定する。

嘘はついていない。

私は未だダンスが苦手だった。



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