ヒレン
「悪いなヒデ。頼む」



和真が片手で拝むように秀明を見た。



「行きましょうか?」



正門まで4人並んで歩く。


新月の空に星が瞬いている



「じゃ。気をつけて帰れよ」



横断歩道で別れを告げそれぞれの方向に歩き出す。



「お疲れ様です」


「うん。ま、頑張るしかないしね」



慣れ親しんだ道を二人並んで歩く。



「秀くんはどう?」



「ま、何とか」



とり止めも無い話をしながら1歩ずつマンションへと近づいていった



「先輩。…ちゃんと話しました?」



何を意味しているかは…主語が無くてもわかる




「……まだ。全部終わってから」



足を止め、空を見上げる



「♪一番星みーつけた」



その声に秀明も空を見上げる



「どうしたんですか?いきなり」



「子どもの頃ね、辛くなったとき智と空を見上げたの。どっちが一番星見つけられるか競争した」



「先輩。先輩の初恋って…?」



「…そう。智。変な話だよね。初恋が自分の片割れなんて」



空を見上げたままのせいか智子の表情はわからないが、声は微かに曇っていた



「和くんの前にも何人か付き合った人がいたの。でも、何だろう。些細なことを記憶の中の智と比べてた。智ならこんなこと言わないのに、智ならどうしただろうとか」



視線を元に戻し、歩きながら智子が小さく笑った




「和くんは違ってた。…ほんと言うとね、似てるって思ったのが最初なの。くせとか言葉とか。でも付き合っていくうちに全然違うってことに気付かされて、気がついたらそんな和くんがすごく好きになってた」




和真のことを話す、外灯に照らされた智子の笑顔を秀明は綺麗だと思った


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