刀人―巡りめく戦乱の中で―
昔から山賊、盗賊に会えば逃げろと言われるように、身の保証が確立されていないことは有名であった。
しかしそれ以前のことに、目の前の男からはそれを決定づけるものがあった。

「貴方の体からは血の臭いがしますから」

体からは微弱に。特に脇に挿している刀から漂ってくるのは何処か殺気に近いものがある。

予想外の言葉に重祢は一瞬驚いた表情を浮かべ、周りに纏う空気が一瞬凝固するように張り詰めた。


「ほぅ。そこまで分かるとは……オメェ何者だ?」

「……見た通りに輿入れ前の身にございます」

祭の返事に納得がいかないとばかりに言葉に殺気が滲む。


「はい、そうですか……で誰が信じられるか!普通の姫がそんなこと分かる訳がねぇぞ。……ましてや今日はまだ殺しはしていないっつーのに」


重祢の言う姫というのは殿方の傍に居るだけの姫を指しているのだろう。確かに、一般的な姫は国から出ることも、ましてや戦に出ることもない。

(常人には分からない程度の香りだと言いたいのでしょう)

それよりも引っかかる言葉を口にした重祢に祭の片眉が僅かに下がる。

それを見逃さなかった重祢は酷く愉快そうに笑った。





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