溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
乾杯の音頭にのる事なく、成り行きがつかめない私は呆然と立ち尽くしたまま。
くすくす笑うみんなの視線の暖かさは紛れもなく勘違いなんかじゃない。
私へ向けられたお祝いの気持ち。
「…な…なんで…?」
「透子さん、おめでとう。大賞とっちゃうイメージじゃないのにとっちゃうところが透子さんですよね。
私達みんな興奮しました」
彩香ちゃんの言葉が胸に響いてくる。
言葉だけじゃない。
ここにいるみんなからの想いを感じて泣きそうにもなるし体中の震えも止まらない。
「…でも…今日は昴と彩香ちゃんのお祝いじゃなかったの…?」
ようやく出た私の声は半泣きでくぐもっている。
「まあ、それは二の次です。しょっちゅう同期で飲み会やってて今更お祝いの会なんてしないし。
今日は透子さんが主役ですから。
驚かせようと思って内緒でここに連れて来たのは悪かったけど…。
みんな、本当に喜んでるんです。
俺達にお祝いさせて下さい」
隣の昴がたたみかけるように話す最中も、今のこの状況が現実に思えなくて。
ついに落ちる涙をとめる事もできないままに、ただ溢れる感情に包まれているだけ。
昴達が入社してからずっと、担任だった私は何かとみんなを気にかけて、早く仕事を一人前にこなせるようにサポートしつつ。
私もみんなに育てられてきた。
指導する難しさや、部下の失敗のフォローのノウハウや…仕事を教える上での悩みは尽きなかったけれど…。
私も悩みながらみんなに育てられたのに。
まるで私を仲間みたいに迎え入れてくれておまけにお祝いまでしてくれる。
「…ありがとう…」
隠す事なく泣き顔をみんなに向けながら、そう言うのが精一杯。
今まで私を慕ってくれて…仲間に入れてくれて…ありがとう。
ふふっ…。
なんだか照れくさいし嬉しいし…恥ずかしいし…。
泣きながら笑ってしまう。なかなかこんなに泣く事ないのに…。今はどこまで泣き笑いを続けなきゃいけないのか…。
「はは…っ。ごめん。
泣きすぎだね」
軽く笑顔を作った時。
視界の片隅の襖がゆっくりと開いた。
…何?
顔が自然に向いて。
何気なく投げた視線の先には。
「本当。泣きすぎだろ」
私をじっと見つめながら
くくっと笑っている。
「…っ…濠っ」
紛れもなく濠がいた。