溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「誤解だ。俺が嬉しかったのは、これで透子を俺の戸籍に縛ってもいいんだって思ったからだ。
別に彩香ちゃんが好きだった訳でも気持ちが揺れた訳でもない」

「何言って…お見合い嬉しかったんでしょ?」

拗ねた口調の透子は相変わらずぐずぐずとした表情と視線。
いつもなら俺に多少の遠慮をして引き際を気にしながら話をしているのにな…。
よっぽどお見合いの事を重く受け止めているに違いない…。

確かに聞いて嬉しい話じゃない。
まして雪美の言葉によって知らされたなら尚更。

それでも、俺の中には一切やましさも遠慮もない
せいか、透子の悩んでる重さと同じだけの焦りもうまれない。
どちらかといえば多少の余裕もあって…。

「なんで笑ってるの?
私が泣いてるのに…」

「くくっ…透子だって、ほんのさっきまで笑ってただろ?
笑って俺の事愛してるって…だから耳が聴こえなくても大丈夫って言ってただろ?」

「それはそうだけど…」

俯く透子の頭をかるく叩きながら。

「…ま。透子が誤解してるんだ。
俺は、森下先生が、俺の耳の事を知った上で自分の娘とのお見合いをすすめてくれた事が嬉しかったんだ」

「濠の耳…」

「俺なら…いつ耳が聴こえなくなるかもしれない男に、大切な娘は嫁にやれないって事。
さっき言っただろ?
もしも俺が透子の父親なら、絶対に俺とは結婚させないって。

…そういう事だ…」

涙目で見上げる透子は、何を俺が言っているのか理解できないように瞬きを忘れたまま。
理解しようと頭を働かせているのがわかる。

「…自分の娘を嫁に出してもいいと思えるくらいに、俺の耳は大丈夫なんだと約束されたようで嬉しかったんだよ」

ゆっくりと区切りながら言い聞かせるにつれて、戸惑って揺れるだけだった透子の瞳の焦点が合っていくのがわかる。

俺の言葉の意味するところを理解したのか、滲んではっきりしなかった光も視線の奥に戻ってくる。

「まさか、将来苦労させるかもわからないような男と見合いさせようなんて思わないだろうし、俺にとっては結婚しても大丈夫だって太鼓判をおされたようなもん。

だから、彩香ちゃんとの見合いの話は単純に嬉しかったんだ。

透子と結婚できるっていう免罪符を手にしたからな」
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