溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
口元は不機嫌気味に下がっているし、口調だって泣きそうに心許ない。
やっぱり…怒ってるか。

ずるいって言われても何も言い返せない。
この10年ずっと、耳の事は何も言わずに透子を愛して縛ってきた俺には、言い訳する事もできない。

「耳は、今は聞こえるんでしょ?異常はないの?」

「あぁ…。大丈夫。
あの日…透子が倒れた日に回復してからは何もない」

「…そっか…。
良かった…」

ふっと息をつくと、相変わらず不機嫌な顔を崩そうともしないまま黙り込む透子。

「悪かったよ…黙ってて」

「うん…。本当に、ずるい。私の心臓の検診にはいつもついてくるのに、濠は耳の事何も言ってくれなかった」

「…そうだな」

「森下先生の言葉が免罪符って…それってすごく悔しい。
…私は何も言えないの?私の言葉だけじゃだめなの?」

「透子?」

それほど大きな声じゃないにも関わらず、切々と話す透子の言葉には悲しさが感じられる。
二人並ぶ距離をつめて、顔を寄せてくる透子は

「私の言葉は免罪符にならないの?」

「え…どういう…」

「他の誰かの言葉に許しをもらうんじゃなくて、私の言葉だけを拾い上げてくれないのかな…」

それまで何度か見た事のある有無を言わせない強い目の光。
揺れる事も逸らす事もない。
ただじっと見つめて俺の答えを待っている。

こんなにしっかりと固く意志を伝えようとする透子を見るのは、初めてじゃない。

この半年、何度か。

多分、コンクールや異動…引っ越しの事を悩んで悩んで…俺に隠したまま結論を出そうとしたに違いないだろう時に、見せられていた表情。

その時には、普段見ない透子の様子に戸惑うだけだったけれど…。
今なら何となくわかる。

何かを決意した顔。

ふっ切った顔…。

透子の心が決まった顔。

「…結婚したかったなら、私の気持ちだけでいいじゃない…。
私が濠と結婚したくないなんて言うわけない」

「…」

「免罪符なら…濠が望む免罪符ならいくらでもあげるのに。
どうして信用してくれないかなぁ」

相変わらずの低い声は、
俺の耳元に吐息と共に届いてきて…。

「…透子」

首に回された透子の腕を感じた瞬間、荒く…優しくない仕草でその体を抱き寄せた。
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