溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「温かくて近くて。
肌が重なってて。
濠の重みだって離せないくらいになじんでて。
目が覚めたら、胸の上に濠の存在を感じられるのがすごく幸せなんだけど。
でも…」

「でも…?」

「幸せ…と同じくらいに悲しい…って感じる」

小さな小さな吐息。
紛れた透子の言葉は聞き間違いじゃないかと、一瞬耳を疑う。
俺が側にいる朝が悲しいってどういう事だ?
いつも当たり前のようにこの腕に抱きしめて迎える朝ほど幸せを感じる瞬間はない。
離れてもがいていた何年かを経ているだけに、手元に透子を抱えている事が当たり前ではなく奇跡だとも…。

幸せだと実感して、尚更透子の体を引き寄せる俺の気持ちは、透子とは違うのか?

悲しいっていうのはそういう事なのか?

「…私は…もう大丈夫なのに。
心臓はちゃんと動いてるし発作も起きない。

止まる事なんてないのに。

いつも私の心臓がちゃんと動いてるのを確かめるのは…濠が私の鼓動を聞くのは…つらい」

「…は…?
ちゃんと心臓が動いてるって…確かめるって」

「私の心臓が動いてる音が、濠の罪悪感を小さくするなら仕方ないって思ってたけど…いつも悲しかった。

私の鼓動が濠を引き止めてる理由の一つなら、つらいの。

私の心臓は大丈夫だから、もう私への罪悪感なんて捨てて単純に私を好きでいてよ…」

「…は…?」

思いがけない透子の悲しい口調は、それだけで俺を戸惑わせて焦らせる。
耳に入るのは単に透子が溜め込んでいたに違いない痛みで。

俺が今まで全く気づかなかった真意。

「何を言ってるのか、よく理解できないけど。
ただ、俺は透子を単純に愛してるだけで今まで側にいたんだけどな…。
わかってなかったか?」

諭すようにゆっくりと話す。
少しずつ興奮が収まるように優しく。

それでもまだ、頬を伝う涙は止まらない。

「…心臓の音は確かに聞いてたけどな。
透子が思いこんでる理由じゃないし」

小さくため息を吐いて肩を竦めた。
そう、透子が悩むような理由じゃないんだ。

透子の鼓動を聞きながらの朝を求めていたのは、そんな理由じゃないんだ。
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