溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
驚いて言葉を失う私を気遣いながら、尚も続く仁科さんの話。
ぼんやりと聞いている私の横で、相模さんが気をつかってくれているのにも気づいているけれど、私には『大丈夫』と言う余裕もない。
一切の意識は小山内という名前に持っていかれてしまった。

それほど、父の存在を意識していた自分を知ってしまって…。

切ない。
今日ここに来るまでの葛藤だって小さくはなかったから。
小山内竜臣という名前に包まれた私の存在を意識しないわけにはいかない現実に立ち向かう勇気すら、やっぱり持てていなかったんだな…。

「小山内さんが、いつも言ってたんだ。

俺の名前を呼ぶ度に娘を思い出すって。

透と…透子。

いつも思い出してたと思う」

悲しみでもなく喜びでもなく、単純にそう伝えてくれる仁科さんは、私をじっと見つめたまま。

「小山内さんが、いつも透子ちゃんの事を話してたから、俺も葵も…まるで透子ちゃんとは昔からの知り合いのような気でいたんだ…。

びっくりした…よな?」

ん…?

と首を傾げる仁科さんは、相模さんに申し訳なさそうな視線を投げた。
義理の兄弟の二人には、言葉にしなくても通じるものがあるんだろう…。
相模さんは軽く肩を竦めると。

「授賞式前に、大切な部下を動揺させないでくれよ」

明るく言いながら、私の背中をぽんと叩いてくれた。
まるで安心させるかのようなその仕種に、私の気持ちは再び現実に戻ってくる。
小山内という名前に反応している自分を感じながら、今ではもう慣れてしまった寂しい想いに苦笑してしまう。

二度と会えない父親に、会いたかったと。

どうしようもなく願ってしまう寂しさ。

「で、動揺させたついでにってわけじゃないけど、案内したい場所があるんだ」

「案内…」

「そう、授賞式には間に合うしホテルからは出ないから…ちょっと付き合って欲しいんだけど」

真面目な光を秘めた瞳で見つめられて…。

どうしようもないくらいに鼓動がはねるのを感じた。
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