溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~



父親の存在を近くに感じる機会を持てた時には、父親はもう二度と会えない存在になっていた。

産まれてすぐに両親が離婚して、会えないままに大人になった。
父親と会いたいと思えるような優しい記憶も持たない私の生活の中には、母親の再婚によって新しい父親が登場した。

有二パパが血の繋がった父親じゃないって知りながらも、そんな事実を重く受け止める事なく幸せに過ごしてこられた。
有二パパと母さんが心から愛し合ってる姿を目にしながら大人になったのと、有二パパが、敢えて父親というポジションにこだわらずに私を大切にしてくれたから。
実の娘と変わらない愛情を注ごうと無理せず、透子として、一人の人間として大きな懐に包んで接してくれたから。

私も彼を、有二パパとして、その関係を大切にしてきた。

そのせいか、心臓の事以外に何も悩む事なく、好きな事を伸び伸びとさせてもらってきた。

実の父親の存在を意識する事なく、私の人生は回っていたんだ…。

そんな日々だったから。

突然届いた実の父親の訃報は、必要以上に私の根本を揺るがすものだった。
存在すら感じずにいた父親が、確かにこの世に生きていたって知ると同時に知った父親が亡くなった現実。

私が歩んできた過去と同じだけの人生を私とは別の流れの中で生きていた父。
私がこの世に産まれてきた確かなきっかけは父親と母親であって…二人のおかげで私は今こうして生きている。

そんな当たり前の事を、私は思う事なく触れる事なく生きていたと、がつんと心に落ちてきた。

落ちて気づいた時には父親は既に遠い人だった。

…足元が揺れる。

信条のような大した心構えを抱えていたわけじゃないのに、それまですんなりと生きていた全てに疑問を被せてしまうくらいに。

私の身体ごと揺れた。

ちょうど、濠との関係にも一人勝手に悩み始めていた頃だったのも手伝って、偏りがちな私の思考回路は更に一方に向かってしまった。
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