溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「この部屋が、披露宴会場の一番人気らしいよ」

「あ…そうなんですか」

壁一面に映えるガラス窓から外を見ている仁科さん。
すっと立つ細身の容姿は何度か会った事のある葵さんの雰囲気と重なるようで、二人が双子だと改めて感じてしまう。
妻の葵さんを溺愛する相模さんよりも昔から葵さんを守りながら生きてきた仁科さんは、彼自身も結婚して奥様を大切にしていると聞いている。
幼い頃にご両親を亡くされたせいか、透さんも葵さんも家庭を何より優先しながら生きていて、家族への愛情は相当なもの。
そう言っていた相模さんも葵さんに負けず家庭を大切にしている。

いいな、家族…兄妹…。

ふっと感じる羨ましさ。

遠くを眺める仁科さんの背負ってきた過去の切なさや寂しさは想像するのに難しくはないけど、それでも。

私の持てなかった…父と共に過ごした時間を思うと、やっぱり嫉妬してしまう。

私は実の娘なのに…。

ちゃんと言葉くらい交わしてみたかった。

そんなどうしようもない想いに振り回されていると、不意に仁科さんが私に顔を向けた。

「この部屋の窓ってかなり大きいだろ?」

「え…あ…はい」

突然の問いに、意味がわからなくて。
ただ見つめ返すしかできない。

「設計段階で、可能な限り窓の大きな部屋にするって決まってたんだ。
…あ、このホテルは今俺のいる事務所も設計に参加したから…。
その時俺は他の会社で働いてたから詳しくは知らないんだけど」

「はい…」

「で…。この部屋に関しては、メインで設計した人がいて…。
…俺にかなりの影響を与えてくれた人なんだけど…。

小山内さんが…この部屋を設計したんだよ」

ふっと笑いながら…それでもどこか私の表情を探るような慎重さで…、聞かされた言葉。

聞いた瞬間は、私には意味がよく掴めなくて…ただじっと、言葉を頭で消化するように何度も、その意味を考えてしまった。

「小山内さんが、想いを込めて設計したんだ。
…透子ちゃんの事を考えながらね…」

多分無に近い表情とは裏腹に、私の心は揺れて揺れて…鼓動の音だけが私を包んでいる…。

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