蜜林檎 *Ⅱ*
杏の瞳の奥を見つめた樹は

とても寂しい表情を浮かべ
  
杏に触れる手を離し

彼女の脇を通り過ぎて
  
ゆっくりと

杏から遠退いて行く。

『イツキに全てを
 見透かされてしまった・・・』

愛しい人の後姿を、ただ
見つめる事しかできない杏が
そこにいた。

「アン、まだ
 こんなところにいたの?
 探したよ
 さぁ、車を停めてあるんだ
 急ごう」

蒼一に肩を抱かれ、歩いて行く
杏の後姿を見た樹の胸は

激しく痛む。

杏の愛が、もう

自分に無い事を知る。
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