嘘つき⑤【-sign-】
尤も、今まで近付けた事なんてなかったのかもしれないけれど。
静かな沈黙が訪れる。
愁哉さんは、一瞬だけその整った顔を緩めた。
「…二度目ですね」
低くて優しい声。
そのレンズ越しの瞳は焦がれて病まない彼のもので
胸に掴まれた様な痛みが走った。
…母様の部屋の前で意識を失った夜、『あの日』もこうしてあなたに抱きかかえられた。
その言葉が
遠いあの夜を差すのなら、
愁哉さんの記憶の片隅にも残っているのなら
このまま、目を閉じて、その温度に触れたくなる。
まるで、ピースのバラバラなパズルの様で、
もどかしさは愛しさと一緒に空気を包んだ。