みつあみ少女にティアラを乗せて ж2部
頭の整理がつかないうちに、藤咲さんが何か言った――なんだろうなんて言ったんだろう……
「あおい様!」
宮町邸前でもたもたしているあおいに、藤咲さんは手を差し出して声を上げた。
怒鳴りに近かったその声に、あおいは我に返って、慌てて藤咲さんの手を掴んだ。
平野邸まで二人は走った。
いつもは優しい夜風が、今日はとても冷たく突き刺していった。
心臓の小人が、もとの位置におさまらない。
屋敷に着き、息を切らすあおいとその気配はない藤咲さんを迎えた家政婦さんは、怪訝な顔をした。
ふたりの息切れの状態ではない。
家政婦さんは藤咲さんを見て、首を傾げた。
「執事さん、具合でもわるいの?」
いつか、コートを貸してくれたメアリーさんだった。
「いえ大丈夫です」
「帰りが遅かったじゃない…」
メアリーさんは腕を組んだ。
藤咲さんは申し訳ありませんと頭を下げた。
あおいも、まだ息を切らしながらごめんなさいと頭を下げた。
故障したみたいに、頭はふわふわして、どこかが痛みのない傷を負ったみたいな感じがしていた。
「あおい様、お母様が心配されていたわ。晩餐の用意は出来ていますが…」
「あたし…ご飯はいいです。疲れたんで部屋で休みます」
あおいは部屋に向かった。
心配そうに見送るメアリーさんを、藤咲さんはまた頭を下げて、あおいを追った。
あたしの歩いた後に、血がぽたぽた垂れてきている。目には見えない血が。