君のそばに
そしてやっと唇が開放された。
お互い息が上がっていた。
その間にも私の頬を伝う涙は止まらない。
「…これで、分かっただろ…。…オレの気持ちが。」
実春は私の涙を拭い取りながら言った。
分かったも何も……。
…ひどいよ…、実春…。
こんなことって…。
私は涙を拭う実春の手を払いのけた。
「…こんなの…、…ひどいよ…実春…。私…、初めてだったのに…。」
私の目からはまた涙が溢れる。
私が知っていた実春ではなく、男としての実春と初めて接し、私は正直、困惑していた。
その後は言葉が続かなかった。
すると、テラスへと出る部屋の明るさに混じり、ボゥッと黒い塊がテラスの床に映し出された。
「…これで、分かっただろ。」
実春はもう1度そう言った。
しかし、今度は私の方ではなく、…その床の黒い塊に向かって。
「ゴホゴホッ」
その音は今度ははっきりと聞こえた。
それは紛れも無く、…清水さんの咳…。
そして、その横には
今まで、見た事がないくらいに険しい顔をした、嘉賀くんがいた…。