黒猫-私は女王-
「何処に行ってたんだ」
西野課長は普通に話しかけている。
真実を知らないのだから当たり前か。
「すみません。ここに来る途中、裏庭の隅にヘリが置いてあるのに気付いて、外で見張ってたんです」
「一言言ってからにしてくれ。伊井田が大変だったんだぞ」
西野課長は呆れた様に言った。
「ごめんね、伊井田君。敵を騙すにはまず見方からって思って」
今度は伊井田に話しかけた。
勿論、伊井田には普通に対応出来ない。
伊井田にとって天宮は心から尊敬するパートナーだった。
黒猫=天宮
と言うのは、知りたくなかった真実だ。
天宮の言葉に曖昧に応えると、今頃になって我慢していた吐き気に耐え切れなくなった。
「大丈夫か?顔色が悪いぞ」
伊井田の背中さすって西野課長が言った。
「トイレに行かせてください」
伊井田は腹部と顔をしかめ、口を押さえて言った。
「僕が付き添います」
突然部屋から出てきた徳井に肩を抱かれた。
徳井は伊井田の背中をずっと、さすっていてくれた。
吐き気もいくらか治まった。
うがいをして冷たい水で顔を洗う。
徳井に横からサッとハンカチを渡された。
礼を言って受け取る。
「黒猫の顔、本当は見たんでしょ?」
徳井の言葉に全身の毛穴から汗が噴き出た。