奇蹟のはじまり
奥様は憑かれたように話

し続けました。

『だけど、そんな醜い気

持ちもあの子を、和也を

一目見たら心の中から消

えてしまったの。側にお

いておきたいと思った。

あの子の将来のためと言

うよりも私自身があの子

を側に置いておきたかっ

たのね。だけど、それの

選択は間違いだった。あ

の子は普通の生活を望ん

でいたし、智さんとも普

通の兄弟でいたかったで

しょう。それに…もし、

あの子が養子になってい

なかったら捕まることも

なかった』

奥様はそこまで話すと、

深く息をついて廊下から

見える枯れた木の枝を見

つめました。
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