偽りの仲、過去への決別
カズの意識のないことを味方にして、カズが勝手にヒロの兄貴達に暴力を振るったことを松山に向かって説明した。 松山はヒロの話す言葉に不満げであった。いかにも責任逃れにしか聞こえなかった。 「お前の兄貴達とカズがけんかしたこといつ知ったんだ。」 松山はヒロを信用していなかった。今までもこいつに騙されていたんじゃないかとヒロに疑惑の目を向けていた。「家に帰って母親から。うちの母親凄く取り乱して大変だったんだから。」 ヒロは自分達がいかにも被害者であるようなニュアンスで語った。 カズが目を覚まさない限り、あの日ことがわからないという利点を生かしていた。誰もが知らないことをヒロが真実を述べるわけがなかった。 松山はこれ以上ヒロに質問しても何も得られないと思った。 ヒロは内心ほっと一息ついた。松山が諦めの表情を浮かべたからだ。 元々が楽天家で底の浅い松山が結構質問してきたことには少々驚いた。ヒロはカズの話題から離れたかった。もう散々好奇な目で見られたから、松山の前ではカズの話しはしたくなかった。「おいお前、本当に知らなかったのか。」 突然声が聞こえてきた。 ヒロは驚いて振り返った。 ヒロの視線に洋二の姿が飛びこんできた。 ヒロはこんな甘ったれの坊ちゃんに自ら進んで質問してきたことに不吉な予感がした。 大体クラスのなかで浮いている存在で、周りの人間に支えられないと生きて行けない洋二なんて、ヒロからすれば最も憎むべき奴だ。 自分の意見も言えない洋二が俺様に質問するなど今までなら有り得ないことだった。 しかし洋二の顔つきが今までとは違って見えた。 カズに影響されたのか今までと違って精悍な感じがした。 ヒロは考えた。ちゃんと受け答えしないと厄介なことになりそうな気がした。「もういいだろう。ヒロは無関係だといってんだから。」 松山が言った。 ヒロは予想もしない助け舟に笑みを浮かべた。ここでタイミングよく松山が話しを途中で遮ったおかげで思案する時間が稼げた。
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