偽りの仲、過去への決別
松山と結衣と行動をともにすることが今は一番大切だ。 理由なんかない。とにかく自分が感じることを感じるだけだ。 結衣も正直不安であった。松山の話しによれば、すんなりカズの病室にたどり着くことが困難だと予想したからだ。
アクシデントに慣れていない結衣は、平常心を持って行動できるか不安であった。 最初からアクシデントに見舞われた結衣は落ち込んでいた。それにこの2人をまだ信用していいか迷っていた。
しかし2人が笑ってくれたおかげで、心に引っかかっていた不安とわだかまりが消えていった。「私を笑い者にしてそんなにうれしい。」 「ごめんごめん、でも笑えたよなあ。」 松山は洋二に同意を求めた。洋二も相槌を打った。
「さあ笑ってないで早く行くわよ。」 結衣は2人を促した。 結衣を先頭に3人は階段を駆け上った。 婦長と久保田はカズの病室にいた。そして今までの経緯を丹念に説明した。 もちろん自分には何の落ち度がないことを中心に話しをした。 カズは黙って聞いていた。 婦長はカズが理解したと判断した。 松山には悪いが婦長は十分な手応えを感じていた。 新人の久保田も婦長の会話には黙って聞いていた。 婦長はカズの病室を後にしようとした。
「松山は何回も来たんだ。俺が眠っている時もこの部屋に来たんだ。」 カズが独り言を言った。 その言葉を聞いた婦長は立ち止まった。すると又、カズに近づいて言った。 「何回注意しても懲りずに来たわ。」 婦長は苦々しい顔をしていた。
久保田は婦長がいつカズに向かって暴言を吐くか心配であった。ただでさえ質問されるのが嫌いな婦長の性格を知っていたからだ。 久保田も馬鹿ではなかった。年相応に人を見る目を養っていた。だからこれ以上問題を大きくしてほしくなかった。
カズは松山が病室に見舞いに来ていたことを知った。やはり幻聴ではなかった。 婦長はカズの独り言が気になっていた。 「今、松山君のこと喋っていなかった。もしそうなら話してくれない。」
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