天使の足跡





“僕は、
 最大のミステイクに
 気づいていなかった。


 大野には言い訳をして
 ごまかしたつもり
 でいたけれど、
 
 本当は気づいて
 いたかもしれない。


 僕がどんなに
 白を切ったって、
 彼は見てしまったのだ。

 一緒にいるところを”








「聞・い・た・ぞ!」


久しぶりに補習授業に出ると、田中が不気味に笑いながら、机に両手をついて目の前に立つ。


「あれだけ用心しろって言ったのに、お前『あの子』に引っかかっただろ?」

「え……」

「大野に聞いたよ。お前さ、部屋に入れたんだって?」

「べ、別に、僕は……」

「分かってるって。でもお前、何で一緒にいたんだ?」



『何で一緒にいたんだ?』



頭の中に、その台詞が木霊する。


「……最近……知り合って……その……」


融通が利かなくなる。

どうにか言い訳をしようと足掻いても、何と言えばいいのか分からなくなる。


どうしよう……


「でも、本当に良かったよな!」


突然、田中が言う。


「金、取られなかったんだろ? 脅されたりしたのか?」

「金……? 脅し……?」


思いいもつかなかった言葉。

突如現れた逃げ道に、黒い光が差す。


僕は絶対に選んではいけない逃げ道を辿ってしまった。



「うん……大丈夫。何も、されなかった、から……」



自分が言ったことの醜さを、肯定することしかできない自身に嫌気が差した。


そんな困ることなんて微塵もなかったのに。


真実を言い出す勇気と誤った逃げ道を選んでしまった自分を、蛇蠍の如く嫌悪する。
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