天使の足跡
一息に捲し立てて、大野を玄関まで押し戻す。


「ありがと大野! そのうち顔出すから! じゃあな!」

「おい、槍沢──!?」


ばたん。


一方的にドアを閉めると、素早く厳重にチェーンまでして鍵をかけた。


「危なかった……」


部屋から玄関の方を覗き込んだ太田が微笑みかけてくる。


「よく言えたね、あんな嘘っぱち」

「褒めてるの? 呆れてるの?」

「褒めてるんだよ」

「そりゃあどうも。お世辞にもなってないし、嬉しくもないけど」


僕は太田から雑誌を奪い取って束ねた。

太田はゴミ袋の口を締めながら、


「一緒に住んでるってばれたら、どうするつもりだったの?」


と、尋ねてくる。


「どうもしないよ。でも大野だって、嘘だって分かってると思う。太田のこと、知らない奴はいないし」

「いっそ誰かに話す?」

「駄目だよ、お互いに何を聞かれるか分からないだろ」

「だね」












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