天使の足跡
脱衣所を出る時のそれは、まるで幽霊に襲われて逃げ出すシーンに似ていた。

もつれそうになる足を必死に動かし、大急ぎで出て行く。


そしてそのままベッドに飛び乗り、抱き上げた枕に顔を強か打ちつけた後、そのまま膝を抱えて顔を伏した。



──ああ、僕はなんて愚かなんだろう。



どうしてあの時、脱衣所なんかに行ったんだ。

男同士だから大丈夫だと思ってたのに……。


自己嫌悪の嵐。

自分がしたことが最悪で、それと同時にショックで、居た堪れない気持ちになった。


あの瞬間を思い出すと、胸が苦しくなる。



瞳を閉じた暗闇の中で、バタンとドアを閉じる音が響く。

足音がこちらに近づいてくる。


顔を伏していた僕には太田の姿は見えないけれど、僕の隣がわずかに沈んだのを感じ取った。

隣に座ったらしい。


僕も太田も、何も言わない。


しばらくして僕は、緊張で震える喉から、恐る恐る声を出した。


「……ごめん」


今でもまだ顔を伏している僕の視界は暗闇だ。


数秒後、暗闇の中で太田の声がした。


「……がっかりした?」


僕は首を横に振った。


「がっかりだなんて……それは違うけど……。
見たことは謝る、ごめん。……でも、太田の体は……」


そっと顔を上げると、強く目を押さえつけていたせいでぼやけた、彼のジャージの色と顔が見えた。


憂いを湛えた太田の瞳が、じっとこちらを見ている。


きっと、自分でも分かっているのだろう。
最大のミステイクだったと。
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