天使の足跡
冷静に太田は答える。


「誤解しないで、自分は槍沢くんと同じ、男……だから……」


躊躇いがちな声は、最後の方で小さく途切れていく。


「でも──」


男子の体とは明らかに違う。


個人差とか、そういうレベルの話じゃない。



“体の構造”からして、違った。


こういう表現は好ましくないけれど。


──男性になければない象徴がない、かといって、
女性になければならない象徴がない──


極端に言うなら、そういうことだ。


「何も言わなくて、ごめん。でも、中途半端に意識してほしくなかったから……」


僕はまた、顔を逸らした。

太田は静かに続ける。


「夏休みの初日に、河原で槍沢くんに話そうとしたこと……実はこの話なんだ」


彼は床に降り、僕を少し見上げて正座した。

まるで謝罪でもするみたいに両手を膝の上に置き、床を見つめて口を開く。



「……自分は、男でも女でも、ありません」



凛とした声と同時に、部屋全体の空気が止まった。



ドッ、ドッっという、心臓の動く音は大きい。



テレビの音も、窓を打ちつける雨の音も遠ざかる。



僕の心音と太田の声だけが耳を通過した。


僕は真っすぐ太田の顔を見た。

太田も真っ直ぐに僕を見つめていた。



「生まれた時から、男と女、両方だったんだ」














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