天使の足跡

他には、昼休みを利用してキャッチボールをしている男子生徒。

眼下に見えるベンチには、加奈とその友人の三人がいた。


「おーい」


校庭を見まわしているところに、パックの飲み物とパンを二人分両手に持った三谷がやってきた。

昨日の交換条件をのんだらしい。

そのワンセットを癒威に押しつけて隣に並んだ。


パックにストローを差し込み、くわえながらぼやく。


「交渉成立だからな」


口元だけで笑った癒威も、ストローを取り始める。


「教えろよ。昨日、咲城と楽しそうに何話してたんだ?」


非難──している訳ではなさそうだった。

どちらかと言うと、様子を見ているという方が正しい。

それで、すぐに心情を悟った。


「あれ? 三谷って寝てたんじゃなかったの?」

「耳だけ起きてた」

「自分で聞きに行けば、咲城さんに」


ブーッと飲み物が口から吹き出す。

相当焦っているようだ。


「聞けるかよそんなこと! 言外に『咲城が好きだ』って言うようなもんじゃねーか!」

「だからそう勧めたんだけど。心配ないよ。本当に何もないから」

「お前にその気がなくても咲城は分かんないだろ。あー、俺の大事なものは全部お前に持っていかれるー」


パンの殻を破りながら不満を漏らした。

癒威は微笑した。
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