天使の足跡

癒威と加奈とは、拓也つながりだ。

三谷はそのことを知らない。

癒威と加奈が仲良く話しているイメージしかないのだろう。

それが原因で思い煩っているなんて……


(可哀そうな三谷……)


ストローをくわえて独白した。


「咲城さんに薦めておこうか? 三谷のこと」

「どうしてそういうことを真顔で言うかな」

「良いじゃん、損はしないでしょ?」

「何、また交換条件でも出す気かよ?」


互いに笑い合い、やがてそれが冷めた頃に三谷が呟いた。


「……お前、変わったよな」

「どんな風に?」

「さっぱりした……みたいな」

「へぇ? 気のせいじゃない?」


それきり、沈黙が訪れる。


話題がなくなってしばらく経つ頃、出し抜けに三谷が言った。


「お前さ、俺に何か隠してない?」


ドキリ、と胸が動いた。


「はあ? 何も……隠してないよ」

「それなら、いいんだけど。もし何か隠してるなら──」


憂いを帯びた表情の三谷と目が合うと、きまり悪そうにすぐ視線を逸らした。

癒威は素知らぬ顔で、パンの袋を開け始める。


「太田ー」


バルコニーの入口からひょっこり顔を出した丹葉が呼ぶ。


「さっきの放送聞こえた? 教科担任に呼ばれてたぜ」


5時限目は英語だから、係りになっている癒威に頼みがあるのだろう。


「あ、準備するの忘れてた」


丹葉にパンと飲み物を押しつける。


「食べちゃ駄目だからね!?」

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