精神の崩壊
近付く限界
 正春は、千春の絵を何とか描き上げ女に渡した。

 〈素晴らしいじゃない〉
 〈気に入ったわ〉
 〈この調子で描いてね〉

 女はそう言って去って行き、暫くして料理を運んで来た。

 今度は、前と違いステーキ等が並んでいた。

 〈絵を描きさえすれば何時でも上げるわ……ウフフッ〉

 女は、そう言って正春達を見詰めている。

 女は、正春達が食事をしている間、まるで監視でもしているかの様にじっと無表情で様子を窺っていた。

 そして、食事が終わるのを見届けてから言った。

 〈さぁ、早く片付けて絵を描くのよ〉
 〈ぐずぐずしないで〉
 「解ったからそう急かすな」

 正春は、そう言って食器等を女に渡し、再びアトリエへ向かった。

 しかし、いざ次を描こうとしても中々浮かばない、しかし描かなければ為らない現実、正春は頭を悩ませ振り絞り何とか絵を描き進めていた。

 そうやって、正春は来る日も来る日も絵を描いていたが、それにも限界が訪れ遂には何一つ描けなく為った。

 監禁から一ヶ月が過ぎた頃には、正春も千春も痩せ衰えて衰弱していた。

 このままでは確実に女に殺される、何とかしなければ。

 正春は、そう思い此処から逃げ出す方法が無いか必死に考えていた。
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