私だけの王子さま



「でも私……、委員長とちゃんと話したの一回だけなんだよ?
それなのに‘好き’なんて言えるのかな?」


声が、震えているのが分かった。

……怖かった。


相手のことを、ろくに知らないまま好きになってしまうことが。


だってそんなこと、あり得ないと思ってた。



たった一回。

それだけで‘好き’になるのは、今まで付き合ってきた男たちと同じで。

所詮、偽物の‘好き’だと思っていたから――。





「ねぇ柚季。これは私の考えなんだけど……」


複雑な表情を浮かべる私を見て、麻智がゆっくりと口を開いた。

私が全てを話した、あの時と同じように。
優しく、諭すような口調で――。


「人を好きになるのって、会った回数とか、話した回数とかじゃないと思う。いくら側にいたって、好きにならない時はならないし、逆に一回しか会ってないのに、好きになってしまうことだってある。

きっと本当に大切なのは、その人と一緒にいて、心が落ち着くかどうかなんじゃない?」



「心が、落ち着く……?」


その言葉を聞いた瞬間、今までぐるぐる回っていたボールがストンと穴に落ちたような感覚が訪れた気がした。


――そう。


それは紛れもなく、あの夜、委員長と一緒にいた時に感じた気持ちそのままだったんだ――……。







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