Monsoon Town
その声に気づいたと言うように、母親が陣内に視線を向けた…が、すぐに彼からそらした。

「知りあい?」

男が母親に聞いた。

母親は静かに首を横に振ると、
「知らない子」
と、言った。

――あんたの息子だろ!

藤堂はそう叫びたくなったが、声が出てこなかった。

何かが喉をふさいでいるみたいで、声を出すことができない。

「行きましょ、こんな窮屈で狭い家にいたくないの」

そう言った母親声は、冷たかった。

「いい娘、いい妻、いい母親を演じるのも疲れちゃった」

「ハハッ、そうか。

んじゃ、行くとするか」

男がそう言うと、母親はスポーツカーに乗った。
< 321 / 433 >

この作品をシェア

pagetop